村上歯科医院症例集

(19)歯牙再植

村上歯科医院治療例(18)に引き続き当院の治療例を掲載します。
今回は久しぶりに「歯周治療」の治療例です。
これは当院歯科衛生士で日本歯周病学会認定歯科衛生士の脇田(旧姓:逸木)が
今年11月17日に熊本市で行われた日本歯周病学会第6回九州地区研修会で
ポスター発表させていただいたものです。
重症の歯周病患者様でしたが、非外科療法で健康な歯周組織を取り戻した治療例です。
歯科関係者の皆様も一般の方も、どうぞご覧ください。

患者様は64才の女性です。


  • 初診時の口腔内写真

  • 初診時のパノラマレントゲン

左下の歯が抜けそうということで来院されました。

治療経過

はじめに

歯周基本治療において最も重要なのは患者自身の病態認識とセルフケア技術の向上であるが、
セルフケア技術の向上と維持において苦慮しながらも、
非外科療法で重度慢性歯周炎の改善がみられ、SPTに移行した症例を報告する。

  • 【初診】2006年11月2日 64才 女性
  • 【主訴】左下に抜けそうな歯がある。
    数ヶ月前から歯牙の動揺は自覚していたが、放置していた。痛みはない。
  • 【現症】36…P3、動揺(M3)
  • 【全身既往歴】特記事項はなし
  • 【口腔既往歴】歯科の麻酔が苦手なため、痛みが出たときのみ通院していた。
    抜歯、歯石除去の経験あり。1年ほど前に27が自然脱落したが放置していた。
    1か月ほど前にテレビで歯周病の怖さについて知り他院を受診後、当院へ来院された。

H18.11.6 初診時

H18.11.6 初診時のレントゲン写真

H18.11.6 初診時の精密検査表

診査・検査所見

歯槽骨の状態は全顎的に水平性の骨吸収があり、16、17、26、47には垂直性の骨吸収が認められた。
また縁下歯石の付着もあり、ほとんどの部位でBOP(+)(76.0%)である。

診断

広汎型重度慢性歯周炎。

治療経過

初診時から知覚過敏症状が出ていたため積極的なスケーリングやSRPに取りかかれず、
ブラッシングを中心に約半年間様子を見ていった。
知覚過敏は軽い症状が2〜3年続き、下顎前歯部はその後も長引いたが、現在は落ち着いている。
患者さんのモチベーションの維持とセルフケアの確立を常に意識しながら、
口腔清掃指導、スケーリング、ルートプレーニングを行った。
気をつけた点はなかなか定着しないセルフケアに対して、
患者さんの生活背景やモチベーションを確認しながら
毎回部分的な口腔清掃指導を積み重ねていった点である。
特に苦手とされた舌・口蓋側のセルフケアの向上に向けては、
毎回清掃状況を患者さんと一緒に確認することを意識した。

  • 1)セルフケアの向上(ブラッシング指導)
  • 2)再評価検査
  • 3)歯周基本治療
  • 4)再評価検査
  • 5)口腔機能回復治療
  • 6)再評価検査
  • 7)36インプラント
  • 8)SPT

H20.1.12 基本治療終了時の精密検査表


H20.4.6 SPT移行時

H20.4.6 SPT移行時のレントゲン写真

H20.4.6 SPT移行時の精密検査表

BOPは19.9%。上・下顎共に前歯部の舌・口蓋側にプラークの付着が認められ出血が認められる。
また、46のインプラント部の舌側もプラークの付着があり、この2点のセルフケアが今後の課題となった。

H25.2.15 SPT開始から約5年後の口腔内写真

H25.2.15 SPT開始から約5年後のレントゲン写真

H25.2.15 SPT開始から約5年後の精密検査表



  • 初診時
    (2006.11.06)


  • SPT移行時
    (2008.05.12)


  • SPT時
    (2013.01.07)

初診時より歯肉は引き締まり、健康的なピンク色となりました。
下の3枚のスライドですが、初診時歯間離開していた左上1、2番間が、
咬合調整と歯周組織の改善の結果、適切な位置へ移動したのが分かります。

考察・まとめ

本症例ではラポールの確立とモチベーションの維持があっても患者の手技によりセルフケアの定着がみられず、
押したり引いたりの継続的な支援が大切であることがわかった。
気を抜くと、セルフケアが疎かになるため、引き続きモチベーションの維持にも努める。
これからも定期的なSPTにより歯周組織の健康を維持出来るよう努め、咬合力にも注意していきたい。

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